sora’s おいしいノート

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小説「転々」

直木賞作家・藤田宜永の「転々」(新潮文庫)を読んだ。
この作者の作品は初めて読むが、小説の裏に流れる乾いた哀愁感がなんとも言えず心を締め付ける。
作者が淡々と描く現実は厳しくも切なく、ついついハッピーな着地点を期待し、想像してしまう自分の甘さを情けなく感じる。
でも、私はハッピーエンドが好きだ。現実は厳しいのは分かっている。物語で位は幸せな気分を味わいたいと思うのだが…
作者はそんな読者の期待をあざ笑うかのように、ちょっとショッキングな結末を用意している。ちりばめられた伏線が、思わぬ所に収斂していく。主人公文哉の彼女(ということにしておく)美鈴の最後の一言「うざったいよ!!」は、文哉だけでなく、全読者の心に突き刺さる痛烈なメッセージだ。
ネタバレになるので、物語の本筋についてはこれ以上語ることを避けるが、この小説にはもうひとつ特徴的なテーマ「東京散歩」がある。東京という都市の裏通りを寄り道し、人と触れ合いながら散歩することで物語が進んで行くのだ。私は東京育ちなので結構楽しめたのだが、ある程度東京の地理を知らないと楽しみが半減するかも…いや、逆に東京を散歩してみたくなるかな。
この作品は2007年に映画化され、DVDも発売されているが、映画のWebサイトを見る限り、原作の印象よりコミカルに描かれているように感じた。ブログなどでの評価も概ね好意的で、ラストも少し異なるようなので、ちょっと見てみたくなった。